ひび訳:MtG

マジックの日英対訳を日々(?)楽しんでいきます。
英文の魅力。翻訳の魅力。MtGの違った楽しさが伝わりますよう。


0018_01
Cathartic Reunion / 安堵の再会 (1)(赤)
ソーサリー
安堵の再会を唱えるための追加コストとして、カード2枚を捨てる。
カードを3枚引く。
The chasm of years and worlds collapsed under the power of their embrace.
長い年月も世界の隔たりも、抱き合う二人にとって障害にはならなかった。
『カラデシュ』(KLD, 1st, 2016) Common

『カラデシュ』(2016) のコモン。

最近赤に定着してきた捨ててから引くドロー呪文です。同じコストの「苦しめる声 / Tormenting Voice」と比べると捨てる枚数、引く枚数ともに1枚増えており、モダンのドレッジだけでなく、スタンダードの現出デッキ、墓地利用デッキを大きく強化しました。手札を捨てるというのは大きなデメリットに思えるものですが、シナジーによって強力になるのはカードゲームならではと言ったところです。

一方で、手札を捨てるのはコストのため、カウンターされるととてつもなく痛いです。かの八十岡プロもこれをカウンターできればゾンビ相手もどうにかなると言っていたような。ハイリスク・ハイリターンなカードと言えそうですが、現環境ではそこまでコントロールも流行っていないのでなんとかなりそうです。ヤソが例外だった。

アルハマレットの書庫 / Alhammarret's Archive」と一緒に使いたかったと思っているのは筆者だけではないはず。



カラデシュのカードもこれまで結構見てきましたが、英語のカードとしては現状これが一番好きかもしれません。

カード名"Cathartic Reunion"の"cathartic"というのは「強い感情を表出させることで心理的な安堵を与えること」という意味の形容詞であり、「カタルシス」/"catharsis"の形容詞形と言えます。よく小説とかストーリーもので「カタルシスを与える」などと言いますが、難題や精神的葛藤をためこめるだけためこませ、起承転結の転にて最後にどーんと発散させるのがカタルシスということです。

このニュアンスが分かれば、"Cathartic Reunion"というのがどれほど劇的な再会なのかがわかるでしょう。お互いに死んだものと思っていた親娘が再び出会う、言葉で表せばこれだけですが、"cathartic"の一語でそこにどれだけの心の動きがあったかが感じられます。

その点で、日本語の「安堵の再会」はカタルシスという語からはだいぶおとなし目です。しかし、果たしてカタルシスに相当する日本語があるものでしょうか。他の言語を見てみると、中国語やドイツ語は"emotional"/「感動的な」に相当する語で訳しており、韓国語の"후련해지는"/「すっきりとする」は日本語訳の「安堵」に近そうです。ロシア語は文字が読めなくて分かりません。

いずれにしても「カタルシス」のニュアンスを伝えるのは至難の業でしょう。ただ、イラストのナラー親娘には、「安堵」という言葉がぴったりです。



フレーバーテキストには、英語と日本語の差がよく表れています。

The chasm of years and worlds collapsed under the power of their embrace.
長い年月も世界の隔たりも、抱き合う二人にとって障害にはならなかった。

英文を直訳すると、「年月と世界の隔たりは、彼女らが抱擁する力の元に崩壊した」。こう、あれなんです、英文は素晴らしくエモーショナルですごい好きなのですが、直訳日本語だと全然伝わらナイ。ともかくも、日本語ではこの原文から、日本語らしい表現に言い換えて翻訳されています。

ここで一番面白いのが、英語では"chasm"/「隔たり, 隔絶」が"collapse"/「崩壊する」という"動的な"表現なのに対し、日本語では「隔たりも」「障害にはならなかった」と、すでにそこに存在している障害がナラー親娘には問題にならなかったという"静的"な表現になっている点です。よく、英語は「する」言語、日本語は「なる」言語などと言われることがありますが、それを体現しているかのような翻訳になっています。

ここで原文の"collapsed"という動的な表現に重きを置いて訳すかどうかは、訳者ごとの好みに任されるところでしょう。実際、日本語では「なる」という言葉を使うことで、"under the power of their embrace"を「抱き合う二人にとって」と対象に訳すことができ、非常に訳しにくい"embrace"という語を上手く処理しています。そのまま動的に訳そうとするとこうは行かないので、英文全体を見た翻訳方針が大事なことが分かります。

ちなみに"the chasm of years and worlds"も直訳なら「年月と世界の隔たり, 隔絶, 割れ目」であり、10年を超える歳月と、次元そのものの隔たりを表していると思われますが、日本語訳では「願い年月も世界の隔たりも」と、隔たりが「世界」にだけかかるように訳されています。英語警察からすると逮捕ものになりそうですが、実際に訳してみようとするとこれが案外分けた方が訳しやすいのです。これは、"the chasm of years"だと「時」そのものが「隔たり」になっている(同格) のに対し、"the chasm of worlds"では異なる次元と次元の間の「境目, 隔絶」を表している(所属) ことに起因しています。ぱっと見で微妙に思っても、いざ訳してみるとなかなか大変なこともあるのでうかつなことは言えないものです。カードや記事を見ているのと、実際にプレイしてみるのとでは違うのと同じですね。


筆者自身は、この英文の肝はやはり隔たりが崩壊するという動的な表現にあると思うので、そんな感じに訳してみましょう。

二人を隔てていた月日も世界も、抱き締めあうことで消えてなくなった。

うーーーん、びみょい、かも。語の選択的に原文にはかなり近いと思いますが、ウィザーズの日本語訳の方が良くも悪くも親娘に焦点が当たっていてより「感動的」な文章になっています。特に、英語では先に動詞を処理しますが、日本語では最後になってしまうので、原文の"their embrace"で終わる印象深さが表出しきれていません。難しい。



アトリエをプレイするのに忙しくて記事が書けない時がありますがご容赦ください。

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